(´・ω・`)ノシ

不在中のままでずっと受け取れなかった「figma 長門有希 悪い魔法使いver.」が
ようやく再配達されますたよ!

てなわけで、直前の記事での予告通り恒例のシリーズのアレですw
時間詐称も甚だしいですが、スレには一応日付変わるまでに投下したのでご容赦を。

↓からどーぞ。


「ねえ有希、あなたも……ジョン……『アイツ』に会いたいって思ってる?」
「…………会いたい」
「やっぱ、そうよね。あたしだってそう思ってるし」
「あなたも?」
「うん。あっ、あたしの場合は有希とはちょっと違うわよ。こんなに可愛い女の子を放っておいて、自分だけ一人でさっさと元の世界とかに逃げ帰っちゃうなんて……もう一回ぐらい蹴りの一つでもかましてやんないと気が済まないじゃないのっ!」
「そんな……」
「ああもう、そんな顔しないでよ。冗談よ冗談! それに……今頃は『アイツ』、あっちの世界であたしや有希のそっくりさんと楽しくやってるんだろうし」
「……」
「ところで有希、あなたも『アイツ』から聞いてない? あっちでは実はあたしは『世界を変えることができるかもしれない』とか凄いパワーの持ち主なんだって! 有希も宇宙人が送り込んだヒューマノイドなんとか、って正体だそうよ」
「宇宙人……わたしが……」
「はあっ。あたしにもそんな力があったらなあ……もしそうだったら、こっちのみんなを一緒に連れて、『アイツ』の世界に乗り込んでやるんだから!」
「……」
「って、なに笑ってんの? ……まあいいわ、あたしも有希の滅多に見せてくれない笑顔を拝むことが出来たんだし、お互い様ね」


 その日の放課後、SOS団のアジトである文芸部室にて、ハルヒがえらくご機嫌なのは、つい先日届いたあのfigmaとやらのお陰なのである。
「こうして改めて確認して思うんだけど、やっぱ有希って、すっごく可愛いところがいっぱいあるのよね! なんていうの? みくるちゃんとは一味違った魅力っていうか……この感情は言葉なんかでは到底表現しきれないわっ!」
 ハルヒの台詞からも解るように、今度のfigmaは長門がモデルだ。それも第二弾だとかで、豊富なオプションパーツが盛り沢山、そのせいかパッケージの箱も一回り大きくなっているではないか。
「しかしなあ、ハルヒの『超勇者』みたいに衣装が全然違うわけでもないし、別バージョンとして出さなくても、付属パーツのセットだけでもよかったんじゃないのか?」
「こら、キョン! あんたってほんとに解ってないわね。いい? 有希の制服バージョンは上半身がカーディガンとほぼ一体化してるじゃないの。この部分だけ交換、なんてセコイ真似しなくても、フルセットだとこうして二体並べられるんだし上出来ってモンよ!」
 二体並べて、ねえ。
「せっかくだから二体だけじゃなくて、もっともっと欲しいぐらいだわ。それにしても、figmaだけじゃなくって、実物の有希も、もう何人か欲しいぐらいなんだもんね……ああ、せめてあと一人でもいいから、有希が現れたりしてくれないかしらねぇ」
 おいおい、妄言もいい加減にしておけ。まあ確かに、各家庭に一人ずつ長門がいてくれる、なんてのはある意味では人類の夢といってもいいのかもしれな……って、痛いぞ、こら! 何で俺の腕をつねるんだ?
「うっさい! いい、キョン。前にも言ったでしょ! 有希はね、あたしの……あたしだけの『嫁』なの! ねっ、有希!」
「……?」
 ハルヒはそう宣言したかと思うと、不思議そうに首を僅かに傾げた長門に背後から抱きついて、無抵抗なのをいいことに髪の毛をわしわしと弄り回すなどして甘えているのである。
 朝比奈さんは、いつものハルヒの自分へのセクハラのことを思い起こしているのか、どこか恥ずかしそうに二人の様子を眺めていらっしゃる。
 古泉も、コイツにしてはかなり意外そうな様子であったが、それでも顔面からスマイル状態を剥がさずにいるってのはさすがだと褒めてやるべきなんだろうかね?

 そして俺は……なんとも平和で微笑ましい光景だな、とか考えながら、ハルヒと長門の方に目を遣りつつ、朝比奈茶を堪能していたのであった。
 実際、翌日に発生する事態のことなんて、これっぽっちも気にしていなかったとはね。油断にも程があるってものだろ?

 その日の晩、まさに俺がベッドで横になろうとする直前のこと。

 携帯電話の着信音が鳴り響く。こんな夜中に電話だなんて、思い当たるのは某団長様ぐらいのものだが、着信メロディが違うものなのでそうではないことは明らかだ。
「もしもし、長門か。一体こんな時間にどうしたんだ、何かあったのか?」
『……あなたに頼みたいことがある。どうか、わたしに協力して欲しい』
「ああ、構わないぜ。いつもお前には世話になってばかりだからな、長門。で、具体的に俺は、何をすればいいんだ?」
 長門が頼みごとなんて、珍しいこともあるもんだ、などと能天気に考えていた俺に対し、その長門の口からは思いもよらぬことが告げられたのである。

『……今から二十九分後より、わたしはわたしではなくなる』
「えーと、さっぱりわけが解らんのだが、何かお前の身に妙なことが起こるってので間違いは無いか、長門?」
『概ね。具体的には、該当時刻よりこの三次元世界に、わたしの異時空間同位体というべき存在が出現する。入れ替わりにその期間中、わたしもその存在が元々いた時空間に転送されることになっている』
 これから自分の身に起こることをどこまでも平然と報告してくる長門であった。
「そ、そんな……長門、一体誰の仕業なんだ? ハルヒか? 今から解っていても、どうにもできないってのか?」
『詳しくはまだ不明。それに……これは既定事項。情報統合思念体の力をもってしてもどうすることもできない』
 あまりのことに呆然として電話口だというのに沈黙してしまう俺に対し、長門からハッキリとした口調で声が掛けられた。
『でも安心して。必ずわたしはここに戻ってくる。具体的な期限は明示できないが、二十四時間後を目標に現在各種情報因子を展開中』
「そ、そうか……そうだよな。お前のことだからその辺は抜かりないよな。で、その間俺は一体どうすればいいんだ?」
『わたしの異時空間同位体は、あなたと同様の普通の人間。特殊な情報操作能力などは一切有していない。わたし自身は帰還に必要な情報操作に使用するリソースが既に限界に達している』
 そこで長門は一呼吸おくと、ゆっくり気味かつハッキリとした口調で言った。
『だから……あなたにできる範囲で構わない……彼女をサポートして欲しい。わたしたちのこの世界の事情を彼女はなにひとつ知らない。その彼女と……涼宮ハルヒのことを、お願い』
「長門……解ったよ。俺は俺にできることを精一杯やってみるつもりだ。だから、お前も必ず……必ずこの世界に戻ってきてくれよ」
『……わかった』
「ところで、その……長門の『イジクーカンドーイタイ』とかいうもう一人の長門ってのは一体どんな感じなんだろうな」
『彼女とあなたは……既に会ったことがある』
「って、何だって? それは一体……」
『実際に会えば、あなたも思い出すはず。それでは……おやすみなさい』
「あ、ああ。長門……お前こそ、気をつけろよ」
『……ありがとう。では……また』

 通話終了、っと。
 さて、長門の言っていた『もう一人の長門』なんだが、俺は既に会ったことがあるって、どういうこと……ははあ、そういうことか。
 なんとなく、通話の最中の長門はどこか申し訳なさそうな様子だった。厄介ごとに俺を巻き込むことになったためなのかとも思ったが、それだけではない。
 長門はあの十二月の一件のことをまだ気に掛けているのだろう。とすれば、俺が会ったことのある『長門』というのも何となく想像がつく。
 どうも、長門の入れ替わりにこちらに来るという『長門』ってのは、俺が例の十二月に体験したあの妙な世界での……まだ眼鏡を掛けていた、内気だけど、どこか大胆なところもある、あの『長門』に違いない。
 そうだな、既に会っているってのなら話も早い。ただ、『再会』したとして、一体何と声を掛けたものやら……まあ、なるようにしかならないよな。

 しかし、問題はハルヒだな。

 アイツはなんだかんだで妙に勘が鋭い。まあそうでなくても、長門と『長門』には誰が見てもハッキリと解る違いがあるし、ハルヒだって確実に不審を抱くに違いないだろう。
 でもなあ、一体どうやって誤魔化すんだ? そもそも長門や朝比奈さんや古泉の正体は一応ハルヒには秘密なのだ――一応ってのは、以前に俺がバラしたことがあったわけなんだが、その当時はハルヒは全然信じようとはしなかったけどな。
 もとい、本物の長門が戻ってくるまでの間、何とかしてハルヒを騙し続けなければならないのだが、どちらかと言えばハルヒは騙されるよりも人を騙す方が得意な手合いだし……うん、待てよ?

 俺は無い知恵を必死に振り絞って一つのプランを練り上げると、すぐに携帯電話を手にして、普段はこちらからは発信する必要もないはずの番号をコールした。

 数回の呼び出し音、時間も時間だし、さすがに寝ちまってるかな? とか思いきや、直後にまるで隣にでもいるんじゃないかって大音量の声が響き渡った。

『こらキョン! こんな時間に電話なんて、なに考えてるのよ、このドスケベ!』
「って、おいおい。まあ夜分恐れ入るってな時刻よりも数段遅いってのは俺も承知だが、お前だってこんな時間に俺に電話して来たことは何遍もあるだろ? 大体そのドスケベってのはどういう意味だ!」
『あたしはいいのよ、だってあたしは団長で、あんたは雑用なんだしさ』
 相変わらず自分専用棚はキッチリと配備してやがるぜ、コンチクショウめ。
『それにキョンったらあたしがお風呂から出たばっかりの時間を狙って電話掛けてきたじゃないの。だからあんたはエロキョンなのよ! あーもう、何事かと思って慌てて出てきたら、あんたからだなんて、湯冷めしたら責任取りなさいよね!』
「って、まさかお前脱衣所に携帯電話置いてたのか?」
『うーん、なんとなくそんな予感があったのよね。って、キョン。あんたまさか……いやらしい想像してないでしょうね?』
「いやらしい想像って……おいこら! 一度電話切るから、着替え終わったらそっちから掛けなおしてくれ。素っ裸で話してて風邪ひいた、なんて言われても俺は面倒見切れんからな」
『あ、アホー! やっぱりエロキョンなんだから、あんたって!』

 しばらくして、ハルヒからの着信を知らせるメロディ。
『で、こんな夜中に何の用があるってわけなのよ?』
「ああ、ハルヒ。驚かないで聞いてくれよ。実はさっき長門から電話があったんだが」
『って何で有希があんたなんかに電話を?』
「最後まで聞けよ……その、長門だが、なんと……記憶喪失になっちまったらしいんだ」
『へっ? ……そ、そんなのって……こらキョン! あたしをからかってるつもりなら、もうちょっとマシな嘘を吐きなさいよ!』
 さすがはハルヒだ。まあ事実デタラメではあるんだが、なんとか誤魔化されて貰わんとな。
「俺は真面目だ。色々訊いたところによると、症状的には軽い部類らしくって、しばらくすれば元通りになると医者が言ってたらしい」
『そうなの……でも、やっぱり心配だわ……それに、記憶喪失だからって、何で有希がキョンに電話しなくちゃならないわけなのよ?』
「それは……ハルヒ、お前この前の市内不思議探索パトロールのときに、自分の携帯電話使わずに、俺ので長門に通話したことがあったろ」
『えっ? あ、あー、そういえばそんなこともあったわね』
「どうもそのときの記録がメモリーに残ってたからリダイアルしてみたって言ってたぞ」
『ふーん、まあ、それなら仕方がないわよね』
「それでだ、ハルヒ。しばらくの間、俺とお前で長門のことをサポートできないかって考えたんだが、どうだ?」
『どう、って一体どういうことなのよ、キョン?』
「いや、長門だって解らないことだらけで不安だろうし、それに、あまり周囲のみんなには記憶のことを知られたくはないから秘密にしておいて欲しいんだそうだ」
『秘密に?』
「ああ。で、何か困ったことがあれば俺に助けて欲しいんだとさ。でも、さすがに俺一人で全てを、ってなわけにも行きそうにないし……だからハルヒ、お願いだ、手伝ってくれないか?」
『ふーん……まあ、あんたがどうしても、って言うのならしょうがないわね。それに、有希はあたしにとっても大切な団員なんだし……解ったわ、キョン! 有希のことならあたしにどーんと任せなさい!』
 こういう場合にはハルヒの面倒見のよさっていうのだろうか、そういった点が頼もしくも思え、その一方で、またしてもハルヒに嘘を吐いてしまっていることが非常に心苦しい。
『それじゃキョン、あんたはこれからすぐに寝なさい。それから、明日の朝は早出して有希のマンションまであたしたちで迎えに行くことにしましょう!』
「って、おい、それじゃあ俺は一体何時に起きたらいいんだ?」
『いい、寝坊なんかしたら百叩きの刑なんだからねっ、解った? じゃあ、おやすみなさい!』

 ぷつっ、つー、つー、つー……。

 切れちまった。
 やれやれ、しかしまあ、これであの『長門』を見ても、ハルヒは大丈夫だろう。
 さて、いつもより早起きしなければならんし、今日はもうとっとと寝ることにしますかね。

 翌朝、妹ではなくハルヒのダイビングボディプレスで、俺がベッド上で悲鳴を上げることになったのも、既定事項ってことなんだろうかね?


 その朝、わたしが目を覚ましたときには、なにかが変だった。
 慌てて眼鏡を探そうとしてもいつもの場所に見つからず、ふと気付くと既に眼鏡をわたしは掛けていて……それだけじゃない、制服への着替えまでもう済ませてある。
 おかしい。昨日の晩にはお風呂に入って、パジャマ姿になってから布団に入ったのに……。
 頭の中が疑問符だらけ状態のそのとき、更にわたしを混乱させるような出来事を知らせるべく、インターフォンのベルが鳴った。
「……はい」
『ああ、有希? 朝早くからゴメンね。ちょっといいかしら?』
 涼宮さんの声だった。でも、こんな時間に一体……?
「まって……」
 既に出掛ける用意もできていたし、わたしは自分の鞄を手に取ると、玄関まで行ってからドアの鍵を開け……、
「……え」
 廊下に出たわたしは、そこで信じられない光景に出会った。

 髪を短くして、何故か光陽園学院の制服ではなく、わたしたちと同じ北高のセーラー服を着ている『涼宮さん』。
 そして……その隣には、ここにいるはずのない……彼の姿が。
「よう、長門」
 そう言った彼は、さっとわたしの耳元に顔を寄せると、思いもよらないことを囁いてきた。
「久し振りだな。『あの十二月』以来ってことにになるのか?」
 間違いない。あの日、忽然とわたしたちの前から姿を消失させてしまった……彼本人だ。
 軽いパニックに陥ったわたしは、何故か彼のシャツを摘んで、ドアの中に逃げ込んでしまった。
「って、ちょっと、有希? キョン? どうしたのよ一体?」
 『涼宮さん』の叫びに彼は平然と答える。
「悪い、ハルヒ。ちょっと長門がまだ混乱してるみたいだから、少しだけ俺に時間をくれ」
「もう……ほんとに大丈夫なんでしょうね?」
 心配そうな『涼宮さん』を他所に、彼はドアをしっかり閉めると、わたしに対して信じられないようなことを話してきた。
「やれやれ、ちょっとハルヒにもこの話は聞かれたくなかったんで、ちょうどよかったぜ。……なあ長門。今回は、どうもお前が一人で俺たちの世界にやって来ちまったみたいなんだ」
 俺たちの世界……ということは、
「……無事に……帰ってたの」
「ああ、お陰さまでな」
「そう……よかった」
 ふと見上げると、彼はどこか困ったような表情になり、しばらくポケットを探って取り出したハンカチを、わたしに差し出してきた。
「え……」
 いつの間にか……わたしは泣いていたらしい。受け取ったハンカチで顔を拭う。なんだか……恥ずかしい。
「それでだ、入れ替わりにそっちの世界に行ってるこっちの長門が、全部を元に戻す算段を手配してくれてるはずだから、お前は何も気にしなくてもいいんだ。ただ、その……」
「なに?」
「お前はこっちの世界の事情は解らないだろうから、あのハルヒにはお前が記憶喪失になってるってことにしている。その点だけ、口裏を合わせてもらってもいいか?」
「……わかった」
「それじゃ、細かいことはハルヒが面倒みてくれるそうだし、俺もできる限りサポートするから」
 彼の話を聞いていても、まだ実感は沸いていなかった。
『はあっ。あたしにもそんな力があったらなあ……』
 昨日の涼宮さん……髪の長い方だけど……の呟きを思い出す。
 わたし、本当に彼の世界まで来ちゃったんだ。
 でも、何故わたし一人だけなんだろう。肝心のわたしたちの涼宮さんは、どうして……。

 そのまま、わたしは彼と『涼宮さん』に連れられて学校に向かった。
 ちなみに、朝倉さんはこちらの世界でも転校してしまっていることになっていたけど、その時期は十二月ではなくて五月、とのことだった。

 授業中はお二人から聞いていた通り、先生たちからは指名されることも無かったし、体育の授業のときも、『涼宮さん』がパートナーになってくれたため、わたしはなに一つ困ることなどは無かった。
 クラスのみんなも決して話し掛けてくることはなかった。その点に関してはわたしも大いに助かった気がした。
 でも、この世界のわたしって、どんな人だったんだろう? 直接会うことができなかったのが、少しだけ残念。
 唯一気掛かりだったのは、廊下ですれ違いざまに、数名の男子生徒がわたしに対して敬礼してきたことだった。どう対処したらいいのか解らなかったので無視してしまったけれど、果たしてそれでよかったのかどうか、疑問。

 放課後、彼と『涼宮さん』に言われていた通り、文芸部室に向かう。鍵は『涼宮さん』が開けておいてくれるみたい。
「……ここは」
 室内に足を踏み入れて、わたしは正直驚いた。
 彼から少しだけ聞いていたけど、わたしのいたあの文芸部室とは比較にならないぐらい物が多い。
 何故ここにあるのか解らない奇妙な衣装の数々。
 中央の長机の上には対戦途中で中断状態のボードゲームが広げられている。
 部屋の奥には冷蔵庫や給湯道具一式に、ラジカセに地球儀。窓際中央には立派なパソコンセット一式、その机の上には『団長』と書かれた三角錐。
 何となく居場所を決めかねていたわたしは、部屋の奥の掃除用具入れの前のパイプ椅子に腰掛けると、自分の鞄の中に入っていたハードカバーを取り出した。
 意外にもそれは、わたしが昨日まで読み続けていたのと同じSF小説だった。
 こちらのわたしも全く同じ本を読んでいたなんて、何て偶然。
 しばらくして、『朝比奈先輩』が来て、わたしに向かって会釈すると、どこか申し訳なさそうに着替えを始めた。
 いわゆるメイド服というものに着替えた彼女は、鼻歌交じりでお茶を淹れる準備を始めた。
 そうこうしている内に、『古泉さん』が到着、こちらに向かって一礼すると、ボードゲームの前に陣取って、駒を並べている。
 このお二人からなにか話しかけられたらどう答えればいいのだろう?
 そんな不安に反して、『先輩』も『古泉さん』もわたしのことなど気にも留めていないといった様子のまま、時間だけがゆっくりと過ぎていくのだった。

 突然、激しい音と共にドアが破れんばかりに開く。
「みんなー、揃ってるわね。ほらキョン、さっさと準備しなさい!」
「解った、解ったから引っ張るなハルヒ! やれやれ、全くその人遣いの荒さはどうにかならんものかね」
 『涼宮さん』に連れられて彼も部室に姿を見せてくれた。何となく先程までの不安感も霧散してしまった模様。
「というわけで、次回の映画撮影に先立って、復習も兼ねて前作本編と、今作の予告編の鑑賞会を執り行うことに決定したわ!」
 後で彼が教えてくれた話によれば、実は『涼宮さん』なりに、わたしの記憶を取り戻す一助になると思って、今回の鑑賞会を企画したのだという。
 彼にとっても、これはわたしがこちらの世界でどのように振舞っていたかを知るためにはよい機会だと思ったと教えてくれた。
 それにしても、映像の中でわたしの着ているこの怪しげな衣装は一体……。
「有希、またあなたにはこの衣装を着て活躍してもらうんだからね」
 そう言って『涼宮さん』が取り出したのは、画面中のわたしをそのままモデルにしたような人形。それと、伸縮型の指示棒の先に星型を取り付けた奇妙なアイテムをわたしに手渡してきた。
 よく見れば、その人形自体も同じ棒を手にしている。
「悪い魔法使いの『ユキ』には、今度はどんな魔法を使ってもらおうかしらね」
「おいハルヒ、以前にお前が設定してたとか言うあのヤバイのは勘弁してくれ。特に最後の三つ目は正直シャレにならんからな」
「うっさいわね! 監督はこのあたしなんだから、雑用風情が口出しなんて野暮なことはしないで!」
「へいへい」
 肩をすくめて苦笑する彼が見守っているのは、得意げな様子の『涼宮さん』。
 なるほど……彼があれ程までにこの世界に帰りたがった理由は、今のわたしにだってハッキリと理解できる。

 最初からわたしが……敵う相手ではなかったのだ。

 俯いてしまったわたしを、背後から『涼宮さん』がそっと抱きしめてきた。
「心配しないで……有希。きっと何もかも元通りになるわ」
「……ありがとう」
「えっ?」
「わたしはあなたが傍にいてくれて、本当に感謝している」
「有希……」

 結局、『涼宮さん』は先の映像の録画されたDVDと、どうやら〈スターリングインフェルノ〉という名前の魔法のステッキをわたしに手渡してきて、
「まあ、有希に限っては何の心配もしてないんだけど、役作りの一環として、有効に活用してくれたら嬉しいわね。それじゃ、本日は解散!」
 と、みんなの前で宣言し、部活動……正確には団活動なのだろうか、は無事終了した。

 その後、『涼宮さん』と彼に送られて、わたしはマンションの708号室まで帰ってきた。
 受け取ったDVDと魔法のステッキ……果たしてこれで、わたしはこの世界で『もう一人のわたし』の代役を務めることができるのだろうか?

「……その必要はない」

「だれ……」
 部屋の奥からの突然の声に、わたしは驚きを禁じえなかった。
 目の前に現れたのは……『もう一人のわたし』だった。

「あなたを元の時空間に転送する。こちらへ……」
「……まって」
「なに?」
「一つだけ教えて……あなただって、彼のこと……わたしと同じなんでしょ? 本当に、このままでいいの?」
「……いい」
「でも……」
「だいじょうぶ。この時空間世界には、わたしのことを待っていてくれる人がいる。その想いだけで十分。……それはあなたも同じはず」
「あ……」
「『彼女』が待っている。急いで」

 ………
 ……
 …

「有希、有希! 大丈夫? しっかりして」
「……ここは」
 先ほどと同じ、マンションの部屋の中。
 目の前には、ロングヘアの少女が、わたしのことを心配そうに見つめていた。
「涼宮……さん」
「有希! よかった……『有希』が言ってた通り、ちゃんと帰って来てくれたのね」
 涼宮さんはわたしの身体を力一杯抱きしめてきた。ちょっとだけ苦しいけど、不思議といやではなかった。
「って有希、あなたが持ってるのって一体……」
 そうだ、わたしは向こうの世界から……。
「これってDVDビデオよね? あたし、見てもいい?」
「……いい」
 ほとんど使用する機会の無かったデッキに円盤をセットする。
 しばらくして始まった、どこかチープだけど、不思議な魅力を持ったその映像作品を、涼宮さんは食い入るように見続けていた。
「へえ、あっちの世界の『あたし』ってのも、中々やるじゃないの!」


「よお長門。お帰り」
『……ただいま』
「お前はこうして無事に戻ってこれたみたいだが、あっちの『長門』はどうなってるんだ?」
『問題ない。無事元の時空間への転送は完了している』
「そうか。そいつはよかった。ああそれから、お前は記憶喪失ってことになってるんで、悪いけど口裏を合わせておいてくれないか?」
『涼宮ハルヒには、既に記憶が元通りになったと連絡ずみ』
「なんだ、そうだったのか。全くさすがだな、長門は」
『……いまのうちに、あなたに一つ謝らなければならないことがある……ごめんなさい』
「おいおい、どうしたんだ長門? 謝るって、何のことなんだ、一体?」
『それは……秘密』


「おっはよう、キョン……とりゃぁ!」
 翌朝の五組の教室で、ハルヒは俺の顔を見るなり、突然に見事なフォームで華麗なローキックを俺の踝にお見舞いしてきた!
「ぐっはぁ! い、痛えだろ! いきなり何しやがる?」
「なにって、昨日有希に電話で頼まれたのよ。人伝にだけど、あんたにローキックを一撃決めてもらいたい、って」
 なるほど、昨晩の『ごめんなさい』ってのはそういうことか……ていうことは、伝言の主ってのは多分……、
「ちょっとキョン、どしたの? そんなに痛かった? なに変な顔してるのよ、一体?」
「なあハルヒ。お前この先、髪を伸ばしてみる気はないか? 高校に入りたてのときぐらいにまで」
「へっ? 突然なにを言い出すのよ? 言っとくけどね、高校入学のときみたいな長さまでにするのって相当掛かっちゃうわよ」
「ああ、俺はまたあの見事なポニーテールを拝んでみたいからな。そのためになら何年でも俺はお前のことを待っててやるよ」
 俺がそういった途端、ハルヒは急に顔を真っ赤にして大声で叫んだ。
「ば、バカキョンのアホンダラゲ! 恥ずかしいこと急に言うんじゃないわよ。って、ニヤニヤしながらこっち見んなっ!」


なんだか長くなった割に微妙ですね~。
消失長門視点だなんて、やっぱ無理だったかw<実力というものを自覚せよ!

一応、書ききれなかった部分の言い訳を書いておきますと

  • こっちのハルヒが「有希がもう一人欲しい」と願った。
  • 消失世界ではハルヒが「みんなで乗り込みたい」と考えた
  • それで消失世界から長門が召喚された。
  • でも、結果的に元の長門が玉突きで押し出されてしまった。
  • それぞれのハルヒは「全てが元に戻る」ことを願った。

って言う流れですね。

流れ的に消失世界に行った長門と消失ハルヒのやりとりは入れられなかったのも残念です。
まあ、ローキックはその名残ってことでw
あと、figmaの付属のスターリングインフェルノって、箱には一本って書いてるのに
実際は二本付属してたというw
だから、一本は消失世界へのお土産にしてみましたw

しかしこの話、ハルユキなのかハルキョンなのか、どっちだ?
長キョン風味でもあるしw ブログ記事の分類に悩ましいけど、一応ハルユキってことで。

てか、そもそも、シリーズは今のところ全部短編だったのに、中編通り越して長編サイズ orz



2 Comments to “「figma 長門有希 悪い魔法使いver.」の消失”


  1. 911 — 2008/09/30 @ 14:09:44

    消失長門視点よかったですよ!
    メタネタなのにちゃんとハルヒの世界になってるのがすごいなーとか。
    というか、よく考えたらこれ、現実世界とハルヒの通常世界と消失世界の3つが交叉しているんですよね。
    要に居たのは実は長門figmaだったわけで。

    しかし長門はハルヒの嫁なのかwww
    いいや、長門は俺の嫁。異論は認めるwww

  2. Gimma_Akito — 2008/10/01 @ 01:54:56

    >911様

    毎度ながら、コメントありがとうございます。

    >>消失長門視点
    いやーもう、全然駄目かと思ってたんですけど
    大丈夫でした? 自分では本当に自信がなくて……。 orz

    >>メタネタなのにちゃんとハルヒの世界
    いや、かなり強引かなとwww
    シリーズ物で、何故かスレの一部のお方にもご期待いただいてるようで
    えらい恐縮なんですが。(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

    >>3つが交叉
    実はもう一つ混じってる? wwww

    >>長門はハルヒの嫁
    これは『約束』のSOS会話ネタだったりしますw
    『萌えって言うよりは嫁』、至言だと思います! さすがハルヒwwww



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