Hold me tightの続きになります。
当初考えていたのとは全然ベクトルの違う話に。世の中ってそんなモンさw
前回、と言っても何のことやらさっぱり解らん人も多いだろう。ちょっと説明する。
ハルヒとの部室でのドタバタで、印刷室の長門のことを放置プレー状態にしていたことを思い出した俺は、部室に置いてあった長門の鞄を取ると、下校時刻ギリギリの校内をハルヒの手を引いて印刷室に向かった。
まあ、途中からはハルヒが俺の手を引いている格好になったわけなのだが。
「迂闊だったわ。あたしとしたことが、有希のことをすっかり忘れてたなんて。……もう、全部キョンが悪いんだからね」
解ってるって。だから、早いところ長門に謝りに行かないとな。……全く、さっきの甘ったるい雰囲気がまるで嘘のような憂鬱さじゃないか。
そして印刷室にて。
呆然と立ち尽くすハルヒと俺。その俺の方をなんとも言えない視線で貫く長門。そして――
「ちょっと、有希。何なのこの大量のダンボール箱は?」
室内を埋め尽くしたダンボール箱。入り口近くにも関係なしに積まれていて、室内に入るに入れないし、これだと長門自身、外に出られない、というくらい邪魔である。この中身、ひょっとして全部コピー用紙なのか?
「そう」
って、おいおい。俺はつい溜息を吐いてしまう。このありえない量の紙束を、一体ハルヒにどう説明したものか、と一瞬悩んだりもしたのだが、
「ごめんね、有希。あたしがコピー用紙適当にガメてきて、なんてお願いしたばっかりに、どっかのバカが、有希がいるのを気付かずに、こんなに一杯ダンボール箱を搬入しちゃったのね。大丈夫? 閉じ込められて怖くなかった?」
と、なんか適当な解釈を勝手にしてくれたらしい。とにかく一安心だ。
「別に。ただ……少しだけ退屈だった」
長門はハルヒの方を見ずに俺を見据えたままそう答えた。なんか、睨んでいるような気もする。なんというか、その、非常に申し訳ない。この埋め合わせは、いつか必ずさせてくれ。
で、結局下校時刻となったため、俺は倉庫番よろしくダンボールを移動させて、長門を印刷室から脱出させ、ハルヒも含め三人して慌てて下駄箱までダッシュすることになったのだった。
しかし、あのダンボール箱の山、やっぱり俺たちで始末しなきゃまずいんだろうな。
あとで長門から聞かされたことなのだが、俺を待っている間中、ずっとヒマでしょうがなかったので、シュレッダーにかけられて室内にごみ袋詰めされていた書類クズまで全て復元して、例によって新品同様のリサイクル紙を大量生産したそうだ。
ちなみにその時生じた使用済み顔料は、ご丁寧にもコピー機の空のトナーのカートリッジに装填し直したうえで、部屋の隅に山積みにしておいたらしい。
ところで、コピー紙はいいとして、ダンボール箱自体はどこから調達したんだ、長門?
「……秘密」
――まあ、聞かなくてもなんとなく想像が付くし、このことに関しては忘れた方がいい気がするので俺もそうすることにしよう。
しかし、長門から『退屈』なんて言葉を聴いたのも初めてだな。例の七夕の一件からは三年近く俺たちのことを平気な様子で孤独なマンションの中待機していたみたいだったんだが。
まあ、ハルヒも変わったといえば変わったんだし、長門もそうなんだろう、きっと。
しかし、変わり栄えしないのは俺ばっかりだな。進歩がないというかなんというか。やれやれ。
翌日のこと。
「おや、一体どうしたのですか? この大量のダンボール箱は」
「ふえぇ……ハコがジャマで、メイドさんのお洋服が取れませんよう。お茶の準備もできませんし、どうしたらいいんですかぁ? あうぅ」
言葉とは裏腹に大して戸惑っている様子でもない古泉と、制服のままというのがが何気に新鮮な朝比奈さんの途方にくれる姿である。
とまあ、一体何があったのかと言うと、ただでさえ狭い部室に、昨日の印刷室から引っ越してきたコピー用紙ギッシリのダンボール箱がワープしてきていたのである。
「…………」
何も言わずに、いつものパイプ椅子ではなく、重ねたダンボール箱に腰掛けて平然と読書する長門。おい、まさか、昨日のアレ、全部運んできたのか?
「全部ではない。全体の丁度六割」
しれっと答える長門。気のせいかその瞳の奥に込められた光には怒りのようなものが宿っているような気がする。ひょっとして昨日のことをまだ根に持ってないか、お前?
「ない」
と、そこにハルヒが登場だ。
「なにこれ? ちょっと、キョン。こんなに持ってこなくてもいいのに。もっと常識的に考えなさい。モノには限度ってものがあるんだから、あんたもその辺をちゃんと弁えなさいよ」
そっくりそのセリフをいつものハルヒに返してやりたい気分になった俺だが、ここはとりあえず黙っておいた。ていうか、別に俺が持ってきたわけじゃないんだがな。
「まあ、いいわ。これだけ物資があれば、補給無しでもあと一年は余裕で戦えるわね」
一体こいつはどこのドイツと戦争するつもりなのだろうか?
「みんな、いい? これからあたしたちSOS団は、第一回ペーパークラフト人形大会を開催します! 文句のある人はいないわね」
声も高らかに宣言するハルヒ。
これまたあとで判明したことだが、どうやらハルヒはネットの某巨大掲示板で、ペーパークラフト作成の模様を逐一報告するスレを見て影響されたらしい。なんて単純なんだ。っていうか、こいつ、VI○○ERだったのかよ。
「実は、いつだったか、『夜になると勝手に動き出すペーパークラフト人形』ってのを入手して棚の上のどこかに仕舞っておいたんだけど、昨日いくら探しても見つかんなかったのよね。まあ、それはどうでもいいわ」
何だよそれは。まるで呪いの人形じゃないか。で、しかもこの部室内で行方不明って、不気味過ぎるだろ、おい。
「とにかく、あたしたちも、自分で勝手に動き回るぐらいの人形を作るのよ。気合と信念があれば決して不可能じゃないわ。――ちょっと、キョン。ちゃんと聞いてる? いいわね!」
へいへい。というわけで、五人揃っていざペーパークラフト工作の時間、と相成ったわけである。
ちなみに、人形のモデルは何故か俺に決まっていた。全く、性質の悪い冗談も程々にして欲しいものだ。
例によってハルヒは自己流で、さっそくなにやら紙を切ったり折ったりし始めていた。
それ以外のメンバー、つまり、俺と朝比奈さんと古泉は、長門が作成した展開図らしきものを基に作業することになった。
なんでも長門に教えてもらったところによれば3Dのモデリングデータからペーパークラフト用の展開図を出力するフリーソフトがあるそうだ。
しかし、俺の3Dモデルなんてものを、いつの間にか用意していたなんて、長門も用意がいいと言うか、なんというべきだろうか。
しばらくして、俺たちはハルヒの分を除いた四体の『俺』人形を完成させていた。
ハルヒの工作が終了するまで、古泉の提案により、俺たちはSOS団全員分の人形を作ることになった。
先程同様に長門謹製の図案を元に残りの面子の人形が次々と作成されていく。って、やっぱり全員分の3Dモデリングデータ、作ってたんだな、長門。
ハルヒ、朝比奈さん、長門、そしてついでに古泉、の各人形。それぞれ結構複雑な形なのだが、慣れてくればこれはこれで楽しいかもしれない。
ただ、完成したものを並べていくと、ちょっとしたシュールさ満点な光景を目にすることになった。なまじよく出来ているだけに、ある意味不気味な気がするのは俺だけだろうか。
しかし、作業中はみんな集中しているのか、長門は当たり前として、ハルヒまでも含めた全員が無口である。
こうして、みんなが黙々と一つの作業に集中する、という図も。この部室内でも滅多に見られるようなモノではない。
静かだな。なんだろう、こういう放課後ってのもちょっといいかもな、なんて気分に俺が浸っていたのも束の間のこと、
「できた~!」
と、ハルヒが雄叫びを上げる。
見れば、ハルヒの手元には、俺たちが作ったものより数段大きなオブジェクトが、ってハルヒよ、それが『俺』なのか?
「そうよ。自分で言うのもなんだけど、結構似てると思わない?」
うーん、どう答えたものだろうか。俺自身、自分ではこういう質問には客観的に答えられそうにない。
だが、そんな俺の考えをよそに、朝比奈さんと古泉は揃って、
「うわぁ~、とっても似てるんです。なんだか、ちっちゃくて可愛いし、リトル・キョンくん、って感じがしますね」
「これは素晴らしい出来栄えですね。さすがは涼宮さんです。細かな観察眼と、手先の器用さを持ち合わせていなければ、とてもここまでの作品は完成させられないでしょう」
と、ベタ褒めである。そういうものなのだろうか。
「…………」
ハルヒの作品を手に取り、じっと見つめる長門。どうしたのだろう。何か気になることでもあるのか?
「なんでもない。ただ……」
ただ、何だって?
「あなたにそっくり」
なんと、長門も絶賛とはね。
「でしょう、有希。まあ、キョンのことだったら、あたしは毎日――」
とそこで何故か黙り込んでしまうハルヒ。おい、どうしたんだ?
「な……何でもないわよ! と、とりあえず、今日のところはこれくらいにしておきましょう」
と、ハルヒの一声で、本日のSOS団の活動はお終いである。
やれやれ。しかし、このコピー用紙の詰まったダンボール箱の山はこの程度では片付かないぞ。一体どうすればいいんだろうな、などと考えていた俺であった。
だが、異変はその時既に始まっていたのかもしれない。
ひょっとしたら長門は既に何か気付いていたのかもしれないが、そんなことは当時の俺に解るはずもなかった。
三日後の部室。
部屋に入った俺は奇妙な違和感に襲われた。気のせいか、ダンボール箱が減っている。誰かが片付けたのだろうか?
朝比奈さんに訊いてみても
「え? わたしはなにも知りませんよ。てっきり、わたし、キョンくんが片付けてくれたものだとばかり……」
と、久々にメイドルックの朝比奈さんは人差し指を顎の下につける例のポーズで可愛らしく小首を傾げて答えてくれた。うーむ、とても癒される。ってそんな場合じゃないか。
そもそも、メイド服に着替えられたのも、そこを塞いでいたダンボール箱がどこかに移動してしまったためなのである。
古泉、お前は何か知らないか?
「いいえ、僕もすっかり、あなたが片付けてくださったものだと思っていたのですが」
と、両手を広げていつものポーズだ。こっちは見ても決して癒されたりなんかしないけどな。
「…………」
長門が無言のままこちらを見つめていたのに俺は気付いた。ひょっとしてお前か、長門?
「わたしではない」
というと、ハルヒの方を一瞥して、長門はまた読書に戻った。
てことは、ハルヒが片付けたのか? まさかな……。
そのハルヒは、よっぽど自分の作品が気に入ったのか、紙人形の『俺』を傍に置いてひたすらネットサーフィンに没頭している様子だ。
ただ、気のせいか、その目がどことなく何も見ていないように思えたのは、俺の気のせいなどではなかったということを、あとで思い知らされることになるのだった。
更に翌日。
ついに、あれほどあったダンボールは完全に部室内から消失していた。
「さて、不思議なこともあるものですね。僕たちの誰もが片付けたのではない、というのに、これは一体どうしたことなのでしょうか」
俺に訊かれても答えられるわけないだろ、古泉。
ひょっとして誰か他の生徒がここに大量のコピー紙があることを知って、勝手に持ち出した、なんてことは考えられないか、長門。
「他の生徒がこの部室内に侵入した形跡は見られない。……ただし」
そのあと、長門は平然と恐ろしいことを口にした。
「昨日施錠したあと、部室内部から何者かが外に出た痕跡を発見した」
何者か、って鍵掛けた後に誰かがこの部室内にいるなんてことがあるわけ――
「キョ、キョ、キョンくん。あ、アレ、見てください~!」
突然、窓の外を指差して叫ぶ朝比奈さん。
俺が見たその先には……
「な、ハルヒ?」
屋上にハルヒがいた。と、その隣には何者か、北高の制服姿の男子生徒がいる。
「キョンくん、あそこの人、キョンくんみたいです。で、でも。キョンくんは今ここにいるし、えーと、これって、どういうことなんですか?」
だから、俺に訊かれても答えられませんよ、朝比奈さん。
「あれは、先日涼宮ハルヒの作成したペーパークラフト作品が擬態したもの」
何だって? 一体どういうことなんだ、長門。
「何者かによる一連の情報操作の形跡が認められる。おそらく、目的は涼宮ハルヒ自身」
つまり、ハルヒは今まさに危険な目にあっている、ってことなんだな。
「そう」
長門が答えると同時に、俺は古泉を見る。無言で頷く古泉。
待ってろ、ハルヒ。今から俺が助けに――
「!」
だが、ドアを開いた俺たちを待ち受けていたのは、なんとも恐ろしい光景だった。廊下を埋め尽くした無数の真っ黒な紙人形が蠢いている。その顔には真っ赤な『呪』の文字が……。
「ひょ、ひょえぇぇぇぇ~~!」
なんとも形容しがたい萌えボイスを上げて、朝比奈さんは気絶してしまった。だが、今はそんなことで脳内に桃色の霞を発生させている場合ではない。
「この場は僕たちに任せて、あなたは早く涼宮さんのところに」
朝比奈さんを脇に抱えた古泉がいつになく真剣な声で俺に告げる。
しかし、この悪趣味な紙人形どもを相手に、俺なんかがまともに立ち向かえるのだろうか?
「敵性群体の分析完了。これより対抗処置を実行する。……あなたは、これを」
長門はそう言って何か早口コマンドらしきものを唱えると、机の上に並べられていたペーパークラフト長門人形の一つを俺に向かって投げた。それは俺の右肩にソフトランディングする。
『急いで』
肩の『ペーパー長門』から長門の声が発せられている。そうか、これはお前の分身、ってことなんだな。実に頼もしいじゃないか。
肩につかまった小さな相棒と共に、俺は廊下に飛び出す。
俺の足元にだけまるで穴が開いたかのように呪い人形のいない空間が発生する。どういった原理かはまるで解らないが、バリアーのようなものを肩の『長門』が展開してくれているのだろうか。
パニック状態の校内。あちこちで生徒たちの悲鳴が上がっている。
俺は無人の廊下をブレーキの故障した暴走車のごとく突っ切った。つい後ろを振り向きそうになってしまうが、それはやめた方がいい、ともう一人の自分が忠告している気がした。
おそらく、黒地に赤文字の塊が大量に俺のことを追いかけてきているだろうからな。そんなモノを見てしまったら、恐怖の余り、足がすくんで動けなくなるに決まっているだろうしな。
渡り廊下を駆け抜け、中館の階段を三段飛ばしで上り、屋上へと出る。掛けられていたであろう鍵は、『長門』の情報操作でこじ開けられたようだ。
「ハルヒ!」
俺の声に振り向くハルヒ。
「え、あれ? ……何でキョンが二人も」
困惑したようなハルヒ。そこに俺に擬態した《人形野郎》が気味の悪い声を掛ける。
《騙されるな、ハルヒ。あいつはニセモノだ。本物はこの俺だ》
クソ、何てこと言いやがる。って、ハルヒの奴、フラフラと《人形野郎》の方に歩いていくじゃないか。
「おい、ハルヒ。お前、一体どうしちまったんだよ!」
足を止めるハルヒ。こちらを振り向く。だが、
《考えてもみろ。あの男はいつもお前の行動に文句ばかりで非協力的だ。俺は違う。俺についてくれば、お前の望みは何でも叶うだろう》
と、《人形野郎》の誘惑の声に、ハルヒは背中を向けるとまた一歩俺から遠ざかっていく。一体どうすればいいんだ?
その時、肩の『長門』が俺に囁きかける。
『敵は涼宮ハルヒの精神面に攻撃を仕掛けている。彼女の心理状態は今、不安定。わたしが敵の本体に直接攻撃を掛ける。それまで時間稼ぎが必要。あなたは涼宮ハルヒを説得して』
そう言って『長門』は俺の肩から飛び降りると、何処かへと走り去った。
と同時に、後ろのドアが開き、呪い人形の一群が俺の足元を取り囲む。畜生、絶体絶命って奴じゃないか。
このままでは身動きが取れない。とにかく、今、俺にできることをしなくては。
「ハルヒ、お願いだ。こっちを向いて、せめて俺の目を見てくれ」
また立ち止まって、俺の方を見るハルヒ。だが、その目はうつろなままだった。
「確かに俺は、今までお前に非協力的だったかも知れん。文句ばかりでさぞ鬱陶しい奴だと思われても仕方ないだろう」
取り付く呪い人形共を必死で振り払いながら、俺は必死で言葉を続ける。
「でもな、ハルヒ。俺はもう覚悟を決めたんだ。お前がどんな無茶をしようと、俺はハルヒにどこまでもついていくんだ、ってな」
ハルヒは、一歩、また一歩と俺に向かって歩み寄る。今まで余裕を見せていた《人形野郎》だったが、
《おい、何を考えている。戻れ。こちらの世界にはお前を傷つけるものは誰一人いない。壊れそうなお前の魂を救えるのは俺だけなんだぞ》
と、動揺した様子でハルヒがこちらに戻ろうとするのを食い止めようとする。
呪い人形の塊に押し潰されそうになり、俺は片膝をついてしまう。だが、俺の心はこんなことで折れたりはしない。
「ハルヒ。俺は信じている、お前の強さを。お前と俺たちの絆の確かさを俺は知っているんだ。何があっても俺たち『SOS団』は一つだ。なあ……お前だってそう思うだろ、ハルヒ!」
「……キョン」
その瞬間、俺の背後からこの世のものとも思われぬ、名状しがたき悲鳴が上がった。
《ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄ロ兄》
みると、『長門』がなにやら妙な姿の人形、おそらく、それが敵の本体らしいのだが、そいつを羽交い絞めにして
『$_ =~ s/ロ/ネ/g;』
と、例の早口で何やら詠唱している。
同時に全ての呪い人形が煌く光の塵となって一瞬で消し飛んだ。
形勢逆転だな。体の自由を取り戻した俺はハルヒの元へと駆け寄る。思い知ったか。SOS団はお前たちの陰謀なんかには決して負けたりなんてしないんだ。
だが、断末魔の叫びを上げながら悶えていた《人形野郎》はその腕を数倍の長さに伸ばすと、ハルヒの足首を掴む。
「きゃぁぁぁ!」
足をとられて転倒するハルヒ。
《こうなったら貴様も道連れだ。決して生かしては返さん》
そう叫ぶと、屋上から転落していく。まずい、このままだとハルヒまで――
『跳んで』
俺は『長門』の声にごく自然に反応した。
全速力でダッシュして、ハルヒの身体を抱えると、そのままの勢いで屋上から飛び出す。
その瞬間、猛烈な旋風があたりを包み込む。
かまいたち現象とでも呼べばいいモノなのだろうか。空気の渦に《人形野郎》だった物体は、粉々になるまで切り裂かれて消し飛んでしまった。
程なく、重力が俺たち二人の身体を虜にする。ヤバイ、落ちる――
次の瞬間。
俺は足の下に何かを感じた。
ふと見ると、小さな紙飛行機――おそらく、先程までは『ペーパー長門』だったもの――が俺とハルヒの全体重を支えたまま、旋回飛行している。
その紙飛行機はくるくると螺旋軌道を描いて、無事に俺たちを中庭に着地させた。
中庭では、朝比奈さんと古泉が、俺たちを待っていた――俺と、腕の中で気を失っているハルヒのことを。
「キョンく~~ん」
朝比奈さんは、俺とハルヒに抱きつくと顔をくしゃくしゃにして泣き叫んだ。
「ふえぇ、キョンく~ん……よかった――涼宮さんも、無事で。ほんとに……ほんとによかったですぅ~。ぐすっ」
古泉は俺の方を一瞥して、いつもの仰々しいポーズをとってみせる。
「さすがですね。あなたの素晴らしい演説は、僕のところまでもハッキリと聞こえてきましたよ。――とにかく、本当にお疲れ様でした」
その古泉のセリフを聞いて俺は脱力した。俺の渾身の説得は、校内中に聞かれちまってたんじゃないだろうな。やれやれ。
「しかし、かなりの騒ぎになっちまったな。さて、一体どうしたもんだか」
「問題ない。情報操作で校内にいた生徒および教職員全ての記憶は既に改竄済み」
いつの間にか、長門が傍に立っていた。その手には妙な形の古めかしい紙細工人形がくたびれた様子で収まっていた。
「そいつが、今回の黒幕ってことか。って、まさかハルヒが探していた『夜になると勝手に動き出す』とかいってたのは……」
「そう」
間髪入れず肯定する長門であった。
なんとまあ。ハルヒが本物の呪いの人形を入手していて、それがつい最近まで部室内に転がっていたなんて、悪い冗談にも程があるってもんだ。
「で、そいつはもう、悪さしたりしないんだろうな?」
「安全。既に無害」
やれやれ。しかし、ハルヒもたいした奴だな。ものの見事に不思議発見ミステリーハンターだ。スーパー○としくん人形を進呈したいぐらいだぞ。
って、もう人形の話はやめにしておいた方がよさそうだな。正直俺はもう懲り懲りだ。
「ん――キョン」
おっと、ハルヒの声だ。って、なんだ、目を覚ましちまったのかと思ったじゃないか。
「とりあえず、僕は涼宮さんを保健室まで連れて行くことをお勧めします。今回の一件は全て夢だった、とでも説明するしかなさそうですね。あとは全て、あなたにお任せしますので」
そう言って古泉は朝比奈さんを促して部室へ戻ろうとする。長門は
「…………」
と、無言で俺たちを見つめていたが、しばらくすると旧館内へその足を進めた。
さて、さっさと保健室へ行くとするか。
所変わって、保健室内。
俺がここまでどうやってハルヒを運んできたか、なんてことは、まあ皆さんのご想像にお任せする。と言ってもなんだかバレバレな気がするのは何故なんだろうな。
ああ、そうだとも。『お姫様抱っこ』の何が悪い、コンチクショウめ。
ちなみに、養護教諭はまるで自分がいることが罪悪か何かであるかのように、俺たち二人を残して何処かへ行ってしまった。なんだろう、妙な勘違いをされても困ってしまうんだがな。
ハルヒをベッドに横たわらせる。と、数分もしないうちに
「う~ん。――え、キョン? ここって――あたし、一体?」
と目を覚ました。
「よう。随分とうなされてたみたいだけど、どうした、ハルヒ。何か変な夢でも見てたのか?」
「夢? まさか、そんな……でも、あれ?」
「なんだ、ハルヒ。まだ寝ぼけてるのか? 顔でも洗って頭をスッキリさせた方がいいかも知れんな」
「バカ。もうちゃんと起きてるわよ」
憤慨した様子のハルヒだったが、すぐに訝しげな表情に戻ってしまう。
「ねえ、キョン。なんであたし、ここにいるわけ?」
俺は、あらかじめ用意していた通りに、ハルヒが貧血で倒れたのでここまで連れて来た、という話をでっち上げて聞かせた。
「そんな、じゃあ、さっきのアレは全部……」
だから言ったろ、悪い夢でもみてたんじゃないかって。
「悪い夢なんかじゃないわ。確かに、ちょっと怖いような、そんな感じもしたけど、でもなにかこう、嬉しいような……」
そう言ってハルヒは頬をピンクに染めたかと思うとそっぽを向いてしまった。が、ふと何かに気付いたように俺の顔をしげしげと眺めて、
「キョン。あんた、そのほっぺの傷、どうしたの?」
そう言われて俺も初めて自分の頬に切り傷が付いていたことを知った。きっとあの『かまいたち』の時の巻き添えを食らったのかもな。しかし、全然痛みがないから気付かなかったぜ。
「キョン――」
そう俺の名を呼んでハルヒは手を伸ばすと、俺の頬の傷を指でなぞり、
「あたしには、夢に思えないのよね。なんだか妙にリアルで――あたしは、確かにあんたに――キョンに助けてもらった気がするわ」
と、神妙に呟いた。
「真っ暗な世界の中で、あたしは独りぼっちで……。でもそこに光が射して、その輝きの中に、キョンが――」
俺はつい、自分の頬に手を当てていた――ハルヒの手の上から。
「キョン……」
ハルヒは一瞬顔を真っ赤にしたかと思うと、俺の肩にその額を押し当ててきた。
「おい、ハルヒ?」
「――忘れなさい」
はあ?
「あたしは夢なんか見なかった。――貧血で倒れて、ついさっき、目を覚ました。それだけよ。で、あんたはあたしから何も聞かなかった。……いいわね、キョン」
ああ、解ったよ。そういうことにしたいなら、お前のいう通りにするまでさ。
「それから――」
「解ってるって。あと何分だ? 五分か? それとも――」
俺はそっとハルヒの肩を抱きながら囁く。
「バカ……」
そう呟いてハルヒは俺の服の端をぎゅっと掴むとその身体を預けかけてきた。やれやれ、これではいつぞやの再現VTRみたいだな。というわけで、本日の実況中継はここまでにさせていただく。皆さん、悪しからず。
翌日のこと。
校内の様子が、何故か妙である。すれ違う生徒や教師共が、皆揃ったように俺とハルヒに向かって
「おめでとう御座います」
と口々に挨拶しやがる。こいつら、一体何の真似だ?
「敵性群体のマイナスエネルギーを正方向に位相転移したときの副作用。大丈夫、あなたが気にすることはない」
って、長門。急に現れるからびっくりするじゃないか。と、その長門が持っているコピー用紙数枚には
『スクープ! ついにゴールイン! 涼宮ハルヒとキョンが放課後の部室で××!』
『養護教諭は見た! 保健室内での禁断の愛! ハルヒ×キョン』
etc、etc。って、なんじゃこりゃあ! 何だ一体、このどこぞの週刊誌やスポーツ新聞の見出し記事みたいなノリは。
「あら、キョン。あんたが手に持っているそれ、何かしら?」
って、ハルヒ登場。いつの間にか長門は姿を消している。ハルヒは俺から紙束をひったくって内容を確認すると、眉をピクピクと震わせて、妙な猫なで声で俺に宣告した。
「校内に、なにやら怪文書が出回っているみたいね。で、なんでここに、あたしとあんただけしか知らないようなことが書いてあるのかしら? ――キョン。あたしにもしっかり解るように説明してもらいたいわね」
いえ、あの、ハルヒ。ちょっと落ち着いてください。って、こ、こら、首を絞めるな! おい、い、息が……苦し――
というわけで、自分で思い返してみても相当なやっつけSSだったはずなのに
物語構成とか小ネタとかオチとか込みで偶然上手く行っちゃったーって感じですw
やっぱ考えすぎはいかんな>自分
Perlの文法とか全然なので間違ってたら恥ずかしいなとか
God Knows…の歌詞はまさにネ申だよなとか
何故か自分のSSって保健室多いなとか
いろいろと考えるべき点の多い本作でしたね。何だこの結論はw

これは呪→祝の呪文に気づけなかった悔しさを思い出しますw
Hold Me TIghtの最後の長門に救済をという声が多かったような気が……?
いまいち覚えてないですが。
こういう長編はハルヒスレではどっちかというと少なかったので印象的でした。
今読み返しても面白かったです。
>911様
長門コマンドはあんなの気付けって方が無理なんじゃないかと反省w
ハルヒスレ投下モノなのに長門大活躍なのは救済措置の一環だったはずなんですが
これで救済になっているかどうかは微妙です。 orz
あと、SSの作者の方はみんな『自分でこんなの読みたい』というか
そういった妄想wからお話をこしらえて折られると思うんですが
そういう意味では自分もこれ系は好きなテイストだったりします。
難点は長くなりすぎるってことなんですけどwwww
というわけでスレの方もご無沙汰なんですがw
今抱えてるmy宿題もこれ系なんですが案の定焦げ付いてます。 orz
書きあがるまではしばらく採録ばかりの公開で恐縮なんですが
それでも読み返して面白かったと言っていただけると励みになります。
ありがとうございました。