(´・ω・`)ノシ

去年の夏の終わり頃に使用していた扇風機の首振り機構が
不幸な事故で破壊されてしまっていたわけなのですが。
で、夏が来る前には「新しい扇風機買おう」とか決心したものの
何故かつい買うのを忘れて家に帰ってきてしまうわけですな。
鶏頭にも程がある!

そんなこんなで一週間ぶりのSSです。
既にネタの旬な時機を逸してる感は丸出しですが、例のメタネタ系です。
↓からどーぞ。


 六月も過ぎたある日のこと――。

 別にどうでもいいことなので気にも留めていなかったのだが、どうやらこの近辺もいつの間にか梅雨入りしていたらしい。まあ雨が降って鬱陶しかったり、蒸し暑くて気が滅入るような日があったのはちょい前からのことだし、今更何を言っても変わるモノでもない。
 そんなこんなで、本日もまた惰性により旧館三階の一角に吸い寄せられるが如く足を運んだ俺の心にはどこか隙があったのであろう。
 いつもなら部室のドアをノックして、ちゃんと入室可能であることを確認していたはずなのだが、その日はどういうわけか、ノックの直後にそのまま足を踏み入れてしまったのである。
「ちわーっす……って、あ、朝比奈さん?」
「ほえっ? キョンくん……ふにゃぁぁ!」
「し、失礼しましたー!」
 慌てて廊下に飛び出す俺、いや、その、決して着替え中の朝比奈さんの下着姿なんてものはガン見したりしてないぞ。あくまでもこれは不幸な事故だ。うん、そういうことにする。
 しかし、部室内では何やら派手な騒音と共に「わひゃっ!」とか「んぴっ!」とか、ある意味表記不能な程の悲鳴が飛び交っているようだ。何と言うか……朝比奈さん、ごめんなさい!

「おや、こんなところでいかがなされましたか? しかも何やらかなり憔悴していらっしゃるご様子で」
 ちっ、古泉め……こういうタイミングで登場しやがるとはな。お前の方が少しでも先に来てたなら、俺がうっかり部室に入っちまうことも無かったろうに。
「なるほど、そういうことでしたか。それはお互いに災難でしたね。しかし、この場に涼宮さんがいらっしゃらないのは不幸中の幸い、と言ってもいいでしょうね」
 確かにな。これでハルヒが居合わせでもしたらどうなっちまうことか――いや、考えるのは止めておこう。ああ、実に恐ろしい話だ。

「うぅ……あ、あの……キョンくん、もう入ってもいいですよ」
 半泣き状態のか細い声で朝比奈さんが俺たちを促し、古泉と共に俺はドアをくぐった。
「朝比奈さん、先程は申し訳ありませんでした」
「いえ、キョンくんは悪くないんです。あの、わたしがちゃんと鍵をしてなかったせいですから……」
 既にサマーバージョンのメイド衣装にチェンジ完了した朝比奈さんは床にしゃがみこんで必死に何かを拾い上げている。一体どうしたのだろう?
「不意のあなたの入室に驚いた朝比奈みくるが本棚に激突、上部二段に展示されていたものが全て落下」
 そういって読書ポーズを取ったままの長門が右手のみで指差したその先の机の上には、ハルヒが大量に集めて飾っていたfigma の大半が雑多に盛り上げられていた。
 スタンドから外れているモノ、細かいパーツがバラバラになってしまったモノなど、一言で表せば、まさに被害甚大、ってな具合である。
「ふえぇっ、ど、どうしよう。このままだときっと涼宮さんが……」
「ああ、それなら俺が片しておきますよ。原因はどう考えても俺なんですし、ハルヒに怒鳴られるのはいつものことですから」
 パイプ椅子に腰掛けた俺は、バラバラ大量殺人事件の被害者たちを手元に寄せると、その復元作業を開始した。
「では僕もお手伝いしましょうか」
「あぅ、す、すみませーん」
 幸いにも破損している箇所は一つもなかった。幾点かのパーツが行方不明になっていたりしたが、それも全て長門が落下位置を特定してくれたおかげで、全てのモデルは過不足無く再生することが出来たのだった。
「って古泉。そのカーディガンは長門のだ。そのハルヒの頭は夏服の半袖のヤツだぞ」
「おっと、これは失敬」
「それから、そのウェイトレスは鶴屋さんだ。で、そっちの朝比奈さんの映画の時の衣装まで間違えるなよな。一応お前は出演してた身だろうに」
 頭部とボディの組み合わせを間違えている古泉に一々ツッコミながらも、俺は記憶の限り元々飾ってあったときと同じポーズに修正していく。そういえばポージングの極意は肘と膝が重要だ、とかいう言葉を見たのはいつだったっけ?

 だが、何もかもが万全という結果にはならなかった。あと数点のfigma を棚に戻す前に、ハルヒが部室のドアを蹴破らんばかりの勢いで部室に降臨してしまったからだ。
「やっほーぃ! みんな遅くなってごめんね……って、なにしてんのキョン? いくら現実の女の子にモテないからって、立体を侍らせてニヤニヤするのは気味悪いから不許可よ。不・許・可!」
 と、俺の手からトナカイ頭の一体を引っ手繰って、それをジロリと睨め付けたかと思うと、
「うん、まあ丁度いいわね……はい、それじゃ全員注目! たった今からSOS団の緊急臨時ミーティングを開催しまーす!」
 と、高らかに宣言したのであった。
 ああ、思い切り嫌な予感がするんだが。

 ハルヒいわく、家の近所の公民館が老朽化で取り壊されることになったのだとか。しかも、その公民館とやらがいつぞやの震災にも耐えて残った古くからの建築物というので、地元民からも名残惜しまれているんだそうだ。
 で、その界隈の子供会でお別れ会なんてのをやることが先日決まったらしい。
 あれっ? ハルヒの家の近所の子供会ってまさか……、
「あなたのご想像の通りですね。以前のクリスマスに我々SOS団がゲスト出演した、あの子供会のようです」
「あら、古泉くんはちゃんと覚えてたのね。さすがは副団長! それに引き換えキョンは情けないわね。ニワトリの方が記憶力いいんじゃないかしら」
 誰が三歩歩いただけで忘れるかっての!
「ま、そんなのどうでもいいわ。今回はあんたはニワトリじゃなくってこっちの方だから」
 と言って、ホワイトボードの向こう側に雑多に積み上げられたガラクタの中から、ハルヒは意味ありげな笑いとともに茶色い塊を引っ張り出したのであった。って、そいつはもしかしてアレか?
「そう、トナカイよトナカイ! 前回はあたしの予想を上回るぐらいにあんたの被りモノって小っちゃい子供たちに好評だったのよねぇ。というわけだから、今回もキョンはこれ被って一発芸をステージ上で披露すること!」
 おいこら、ちょっと待て。またアレをやるのか?
「もちろん前と同じじゃダメよ。あの時以上に盛り上がるまで何回でもやり直ししてもらうから、覚悟しておきなさい!」
 で、つまらんかったら異次元にでもすっ飛ばすとか言うんじゃなかろうな、やれやれ。俺はそういうのは正直もうゴメン……、
「古泉くんにはカメラマンをお願いするわ。いい、キョンのマヌケ舞台を未来永劫記録するためにもしっかり頼むわよ!」
「畏まりました。ご期待に沿えるように誠心誠意を尽くして見せます」
 何か全然聞いちゃいねーな、こいつら。いや、期待するだけ無駄と言うか、いい加減俺も学習が足りないってことなのかね?
「あとは、そうね……みくるちゃんは映画のときのウェイトレス衣装で登壇して貰いましょう!」
「えええっ! そ、そんなの……はずかしいですよぉ」
「大丈夫よ、みくるちゃん! あなたはもっと自分に自信を持つべきなの。あたしが保証するわ、絶対みんなにウケるって。それともバニーちゃんの方がいいかしら? どっちでも好きな方選んで構わないわよ」
 って、何の根拠があって大丈夫なんだよ、おい。つーか、その二択しかないのって無茶苦茶だろ!
「ふえぇ……ウ、ウェイトレスの方で……お願いしますぅ」
「じゃあ決まりね! となると、有希は悪い魔法使いのマント姿でいいかしら?」
 長門はチラリとも視線を上げることなく、
「了解した」
 とだけ返答して、また読書に没頭する。まあ、これもいつもの反応だな。
「それじゃあ、明日はいつもの時間に駅前に集合ね。いい、キョン? 遅れたりしたら罰金倍額だからね。それと、ちゃんとネタは用意してきなさいよ、ちゃんと笑えるようなのじゃないと却下だからね!」
 何だか酷い頭痛がしてきたぞ。まあ、だからといって明日は病欠が許されそうにもないな。ってか、明日? ……ハルヒよ。毎度毎度話が急すぎるんだよ、お前は!
 ちなみに、帰り際に朝比奈さんを訪ねてきた鶴屋さんにも明日の催しの話は伝えられ、
「それじゃ、あたしも混ぜて貰おうっかな? 何だか面白そうっさね。なははは!」
 と、いつの間にか名誉顧問鶴屋さんの参戦まで決定されていたりしたのであった。
 全く、もうどうにでもなってくれよ、本当にな。

 その帰り道、鼻歌交じりで意気揚々と歩くハルヒ、それに続く鶴屋さんの隣では朝比奈さんが俯き加減に歩いている。長門が歩きながらハードカバーのページを片手で器用に進めるのもいつもの光景であり――俺は脇にいる古泉と密談中なのであった。
「今回のお前は随分と楽そうじゃないか?」
「案外そうでもないかと。実際、裏方というのは何かと気を使うモノだというのはあなたの方がご存知だと思いましたが」
 それは時と場合によりけりだと思うんだがな。正直、何でまた俺が矢面に立たないといかんハメになったんだろうな?
「それは明らかでしょう。涼宮さんはあなたに期待しておいでなのですよ。事実、前回の催しでは、あなたは何かと注目の的でしたから」
 まあ、確かにそうだったかも知れん……もっとも、ちびっ子限定って意味ではな。嬉しくもなんともねーぞ。
「もちろん、僕たちも全力であなたをバックアップしますからご安心ください。もし必要であれば、いくつかネタを提供しても……」
 いや、そいつだけは遠慮させてもらう。
「そうですか……それは残念です」
 って、古泉よ、そこまで心底ガッカリしなくてもいいだろ?

 そして当日の駅前、集合時間の十五分前に到着するも、既に俺以外の全員は待機しており、罰金倍額こそ免れたものの、またしても俺の奢りって流れであるのは確定である。いい加減理不尽だ、コンチクショウ。
 ちなみに、ハルヒは、
「今日は特別に罰金は免除よ。あたしに感謝なさい」
 などとのたまいやがったが、何のことはない、昼食や飲み物の類は全て子供会側で用意してくれていただけのことに過ぎない。
 これで次回の市内探索時に今回の分を合算なんてことになった場合、結局それは倍額を俺が払うことになるのでは? ……いや、そういうことを考えるだけ無駄なんだろう。止めておくか。
「それでキョン、肝心の一発芸の方はバッチリなんでしょうね?」
 おう、万事オーケー、安心して俺に任せておけ! ……なんて強気に返答できる程余裕があるなら、睡眠時間が三時間未満だというマヌケな結果にはならなかったろうに。
「はうぅ~! な、何だかもう緊張してきちゃいましたぁ」
 朝比奈さんは声を震わせながら呟くと両手で自分の肩を抱いて今にも泣き出しそうな調子である。
 実際、俺からしてみれば例のウェイトレス衣装なんかよりも、今現在のこの私服姿の方が個人的には好みだったりするんだが、まあそんなことを言ってもどうにもならんだろう。
 って、長門は既にマント姿か? 何だろう、見ているだけで暑そうというか、正直それで平気なのか?
「平気。なにも問題はない」
 涼しい顔でサラリと答えると、長門は手にしていた文庫本に目を戻した。
「調子は如何ですか? と言っても、どうやらあまりお休みになれなかったみたいですね」
 一日カメラマンの古泉が白い歯を見せて笑いかけてくる。全く、無駄にキラキラ光りやがって、今日の撮影はフラッシュいらずなんじゃないのか?
「ふむ、おそらくカメラ位置からステージまでの距離を考えるとフラッシュは役に立たないのではないでしょうか。屋内はどうしても光量が不足がちですし、手ブレしないように気をつけることにしましょう」
 はいはい。

 さて、目的の公民館前に到着した俺たちを待っていたのは、我らがSOS団名誉顧問その人なのであるが、
「つ、鶴屋さん、何でまたそんな格好してるんですか?」
「いやぁ、何かみくるに訊いたらみんなで面白い格好するらしいってんで、あたしもちょっくらそれにのってみたってだけなのさっ!」
 と、いつぞやの文化祭の焼きそば喫茶・どんぐりでのお手製ウェイトレス衣装を翻したのであった。
「さすがは鶴屋さんね。ほら、みくるちゃんも早く着替えてらっしゃい! 何ならあたしが手伝って……」
「ふえっ! ひ、一人で出来ますよぉ……」
「あらそう? って、こらバカキョン! あんたもボサっとしてないでちゃっちゃと準備しなさい!」
 へいへい。解ってますとも、団長様。
 ハルヒはいつもの水鳥の嘴状に自分の唇を突き出して睨みつけてきたが、その視線が瞬間、背後に移ったことに俺は気付いた。一体どうかしたのか?
「…………」
haruhi_touch_wall
 普段とは違う神妙な面持ちで、ハルヒは公民館の傍に歩み寄ると、そっと右手を伸ばして壁に手を触れ、
「もう……なくなっちゃうんだ」
 と、他の誰にも聞こえないぐらいの音量でポツリと呟いたのだった。

 そのとき――俺はハルヒにどんな言葉を掛ければいいのかも解らず――ただ、今のは見て見ぬ振りをしておくべきかも知れんな、と例の被りモノを片手にその場を離れ、公民館の裏手まで移動した。
 しかし、改めて考えるに、この蒸し暑い中にこれ被って待機ってのも何だかな。正直、カエルさんスーツみたいな全身着ぐるみじゃなかった分はマシなのだろうが。
「おや、あなたの方から来ていただけましたか」
「あの、キョンくん。今から呼びに行こうとしてたんです」
 と、そこには既に着替え終えた朝比奈さん、それにとんがり帽子の長門、そして古泉の三人が並んでいた。って、何かあったのか?
「問題が発生。こちらに来て」
 と、長門に導かれるまま俺たちは通用口から公民館に……、
「って、どうなってんだ、こりゃ?」
 確かのそのステージは、俺にも見覚えのある内装であった。だが、その広さが半端じゃない。虹色に輝く陽炎の向こう側に地平線が見えるほどである。
「なるほど、いつかのカマドウマの時と似たような雰囲気ですね。また異相空間が発生してしまった、と考えてもよいのでしょうか?」
「概ね」
「あ、あの、このままだと涼宮さんも子供会のみなさんも、ここに入ってきちゃったりしませんか?」
 って、そいつはマズイぞ。
「ふむ、何とか涼宮さんたちを足止めする必要がありそうですね」
「一時撤退を推奨する」
 ああ、とにかく一旦外に出るか。

 しかし、一体どうやってハルヒや子供たちを中に入れないようにすればいいんだろう? 短気なハルヒのことだから今にも中に入って行ってしまいそうだしな。
「あれれ、みくる? それにキョンくんたち、こんなとこで何をしてるのかなっ?」
「あっ、鶴屋さん! え、えーと、そのぉ……」
「おおっ、どうやらみんな、ちょっと困ってたりするのかな?」
 そのとき、古泉が俺にだけ解るように合図を送ってよこした。ああ、この場はそうするしかないかもな。
「ええ、鶴屋さん。実はちょっとステージでの準備に手間取ってまして……その、ちょっとの間だけでいいんで、ハルヒと子供たちのことをお願いしてもいいですか? 出来れば屋外で、なんですけど」
 鶴屋さんは一瞬目線を上に逸らしたが、やがて何もかも承知したかのように、
「解ったよ、キョンくん。じゃあ、ちょっくらハルにゃんと子供たちのとこまで行ってくるっさ。でも、あんまし長くは無理だと思うから、なるべく早く片付けておくれっ! そいじゃっ」
 と、意味あり気な微笑みとともに表の方に駆けていってしまわれたのだった。ふう、本当に助かりましたよ、鶴屋さん。
「それでは、僕たちの方も急ぐことにしましょう」
 ああ、そうだな。とっとと終わらせちまおう。

 再びステージ上に戻ってきた俺たち四人なわけだが、また怪しげな化け物だか何かと戦うことになるのか、長門?
「その必要はない」
 はあ?
「確かに長門さんの仰る通りのようですね。僕の能力はこの場では何かを攻撃するのは無理みたいです」
 じゃあ、どうすりゃいいんだ? って古泉そのデジカメは一体?
「ええ、以前とは状況が異なる様子で、僕の能力はこのカメラを通じてしか使用できないのではないでしょうか」
 長門に尋ねるかのように古泉は紅いオーラ状の靄を纏ったデジカメを掲げたが、当の長門本人はそれを肯定も否定もせずに、
「このステージ上の時空間連続体の結合情報が多重化している。空間そのものの容積に変化はないが、可視光線が高密度の格子状情報結合体によって異常回折状態になり、視覚情報による見かけ上の距離が実際の距離以上に観測されることになる」
 ううむ、相変わらず長門の説明ってのは俺にはチンプンカンプンだな。
「つまり、この空間の何らかの密度が非常に高いために、光の屈折率に異常が生じた結果、僕たちには果てしなく広がるステージに見える、ということでしょうね」
 って、古泉も古泉で一人納得してんなよ。
「つまり……そうですね、例えば水中に真っ直ぐな棒状のモノを入れた時に、見た目では曲がって見えることがありませんか?」
 ああ、コップの中のストローが変に曲がって見えたりする、アレのことか。
「つまり、あの現象は大気中と水中での光の屈折率が異なるのが原因です。我々人間は普段大気中にいるために水中での距離感を誤ることも多いでしょう。今この場で僕たちが目にしているのは、その現象が極端な状態で発現しているのだと考えてもよろしいかと」
 ほほう、なんとなく解ったような、何だか誤魔化されたような。
「通常空間とこの空間での目測距離の誤差は波動方程式と理想気体の状態方程式を時空間連続体に拡張した変形式から導出可能……」
 いや、そこまで詳しく計算しなくていいぞ、長門。てか、もうあまり残り時間がないと思うんだが……。
「時空間の構造解析に必要な演算。問題ない。あと八秒で完了」
「ああっ、そ、そうですかぁ……そうなんですよね」
 突然叫び声をあげたのは朝比奈さんだった。って……どうかしましたか?
「あ、いえ、なんでもないです。ただ……詳しくは禁則事項に該当するので説明できませんけど、この現象は涼宮さんの記憶がもたらしたんだと思います」
 ハルヒの記憶が、か?
「なるほど、涼宮さんも過去にはこの子供会に参加されていたでしょうし、この公民館にも何かと思い出とか愛着がおありでしょうからね」
 古泉も合点がいった様子で頷いている。
 ってことは、ハルヒがここでの自分の過去を思い出したためにこんな現象が起こっちまったってわけか。

「さて、長門。どうやってこのステージを元に戻せばいいんだ? 教えてくれ」
「涼宮ハルヒはこの空間内での体験を永続的に保全することを望んでいる。よって、それらを時系列順に分離し、各個を他の記憶媒体に移動することでこの空間は正常化されることになる」
 しかし、他の記憶媒体って?
「ああ、それでこのカメラが必要とされるわけですね。ところで長門さん、一体どの程度の記憶容量があれば足りるのでしょうか?」
「既にそのカメラ内部のメモリカードは必要な情報量を記録可能なように改竄済み」
 そうか、それじゃさっさと全部撮影しちまってくれ。

「では開始する……」
「了解です。僕の方はいつでも構いませんよ」
 長門がいつぞやのように超高速早口言葉呪文を唱えると同時に、目の前の虹色の陽炎が目まぐるしく変化を始めた。同時に古泉の構えたデジカメからはありえないほどのスピードでシャッター音が鳴り続けている。
 やがて、目の前に薄ぼんやりと何かの形状が凝集していくのが見て取れた。
「ほえっ……今の女の子って……まさか」
「あれっ、もしかして朝比奈さんにも見えたんですか」
「ふむ、どうやら見間違いではないようですね」
「……確認」
 俺たちは確かに目撃したのだ。そのステージのほぼ真ん中で、黄色いリボン付カチューシャの少女が生き生きとした表情で正面を見据えているその姿を。
 そして、ステージの見かけ上の広さはどんどん収束して元通りの大きさに近づいて行き、やがて虹色の輝きが殆どなくなりかけた頃に、
「って、おい、これってまさか」
「あっ、これってキョンくんですよね」
「ええ、おそらくはクリスマス会でのシーンでしょうか」
「ユニーク」
 丁度ステージの後ろのスクリーン上に結ばれたその映像は、例のマヌケなトナカイヘッドを頭に被った俺を、ハルヒが満面の笑みでどついているという構図なのであった。
「ちょっと待ってくれ、どうしてこの映像はこのまま消えないんだ?」
「消去されないわけではない。ただ、完全に元の状態に復元されるまでには二時間を要する」
「つまり、お別れ会の間はこのままということでしょうね」
「えーと、でも、今日はキョンくんの晴れ舞台ですし、わたしはピッタリだと思いますよ」
 あの……朝比奈さん、それシャレにも慰めにもなってないですから……。

「こらキョン、もうお別れ会、始まっちゃってるわよ! あんたいつまで準備に掛かってんの……あら? へえ……この写真、あんたが用意したわけ?」
 ってハルヒが緞帳をくぐってステージに顔を突っ込んできた。一応は間一髪で事なきを得た、ってなところだろうか。
「あっ……ああ、まあな。ちょっと手間取っちまったがな。もうそろそろ始めていいぞ」
「全くもう、子供会のみんなも早くトナカイ芸を始めろってうるさいんだから。じゃあ、幕上げるわよ。みくるちゃんも有希も急いで! 古泉くんもカメラをスタンバって頂戴」
「ふえぇっ!」
「了解」
「では配置につきましょうか」
 やれやれ。

 そうして、『怪奇! トナカイ男の大爆笑・オン・ステージ』とやらは、いつの間にか知らんがグダグダな状態のままで、なし崩し的に始められることになっちまった。
 頭の中真っ白状態の俺が壇上で何を喋って何をやらかしたのか、その一切が全く記憶にない。ただ、大勢から一度に大量の笑い声を浴びせられるってのは、やはり精神衛生上非常によろしくないね。
 まあ、その笑いの原因もスクリーン上に固着した画像に対しての反応だろうし、何と言うかいたたまれないことこの上ない。
 そして、舞台から降ろされた俺を待ち受けていたのはちびっ子たちの少々手荒い歓迎であった。ドサクサに紛れて蹴り入れてくる輩までいた始末だ。結局、最後の方には足元に纏わり付かれて歩くのにすら難儀したぐらいだ。
 それと鶴屋さん、あなたはマジで腹抱えて笑い過ぎです。勘弁してください。

 ちなみにハルヒは終始渋そうな顔つきで俺の方を注視していたようだが、現在のところ俺が異次元にすっ飛ばされてはいないことから、まあ次第点は得られたんだろうと勝手に思っておこうか。
「全然ダメよ、あたしから言わせればね。まあ、ギリギリ合格ラインってところかしらね。小っちゃい子たちにはウケが悪くなかったみたいだし、それに……何故かあんたって、あの手合いにはモテモテなのが不思議なのよね。ちょっと面白くないわねえ……」
 おい、何か言ったか?
「何でもない……フンだ!」
 ところで、案の定ではあるが、朝比奈さんと長門のステージバトルは父兄の方々には賛否両論だったとか。その『賛』がお父さん方であったのは言うまでもないことだろう。

 後日談――。

 どうも例の公民館は取り壊しではなく、周辺住民の強い要望を酌んで建て替えの方向に計画が変更されることになったらしい。何故そういう結果になったのかは、俺なんかの与り知らぬ話であるわけなのだが。
 もしかして、ハルヒがそう願ったから、なんてのは少々穿ち過ぎだろうか? まあ、アレだ。細かいことを考えるのも適当にしておかないと。

 なお、これは全くの余談なのであるが、例の子供会のメンバーの間ではfigma がひそかにブームを迎えているらしい。ちなみに一番人気は朝比奈さんのウェイトレスVer.……に付属のトナカイ頭だそうな。やれやれ、世も末だね。


なんか久々に複数レスの投下だったりしますよ。
1レス容量限界まで詰め込んだりしてるけど、なんかそれもどーよ? とか。

ところで、実は今回のメタネタって最初に作ったプロットはお蔵入りでした。

まあ大体こんな感じだったんですが。

#あー、次スレのタイトルまちごーた。'`,、('∀`) '`,、

orz




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